02-03100　風月菴似雲示寂地

踞尾村つくおむら北村きたむら氏が家也
此桒門さうもん常つねに和哥わかを詠し諸國めぐりこゝに寄宿きしゆくして没ぼつしけるなり
^{近世畸人傳云}
僧似雲じうん始はじめの名は如雲じようん安藝國あきのくに廣嶋ひろしまの人也
哥を好このみ都に登りて儀同ぎとう三司し實陰さねかげ公に学まなぶ
名山めいさん霊地れいちこゝかしこにあそひ住所すみところを定めされば世に今いま西行さいぎやうといへるを聞て自みづからも
　　西行に姿ばかりは似たれどもこゝろは雪と墨染の袖
と戯たわむれけるこの上人の墓所はかどころさだかならぬを歎きて石山の救世菩薩くせぼさつに祈いのり其霊告れいこうによりて河内國弘川寺ひろかはてらをもとめ得たり
そこにて唯行塚といひならはして其よしもさたかならさりしを石のしるしを建はた其寺に有ける肖像せうざうをも捜さがし出て堂を建立し自みづからも山中に庵いほりを結むすびて住り春雨しゆんう亭といふ其時の哥に
　　並ならぬむかしの人の跡とて弘川寺にすみ染のそで
その庵のひろさ畳一ひら二ひらに過されは人々見て今すこしひろよといひけれは
　　我庵はかたもさためず行雲の立居さはらぬ空とこそ思へ
此山にあるほと又いづこにまれ一人住る時は掻餅かきもちといふもの二ひらを舌にのせて一日の糧かてに充あて飯はん炊かしく煩わずらひを除のぞきけるとぞ^中畧須广すまの浦に有ける時久しく絶たへたる塩竃しおかまを興しあらし山の麓ふもと大井の川辺には弘川とまたく同しきさまの庵をつくる
　　住かへん秋はもみちのさがの山春はよしのゝ花の下庵
苔清水こけしみづの奥にしばし住ける跡あとあり其外髙野かうやの奥おく龍門りうもんの瀧たきの辺ほとりなど世離よはなれし所々に住る趣おもむきは其自記じきおもひ草年並艸なとに見ゆ
八旬じゆんにあまりて和泉國いづみのくに蹲尾つくおの豪冨がうふ北村きたむら氏に身をよせてそこにて没ぼつす
體からだは遺言ゆいげんして弘川ひろかはにおくる西行と同しさまの墳つかを築きづく
著あらはす所右二記の外似雲聞書と題して儀同ぎどう公の御説をたゞ事に書つけたるものあり雜話ざつわもまじれり又葛城かつらき百首といふものもあり^下畧