牛瀧山大威德寺
牛瀧丹楓見
新古今
紅葉ゞをさこそ嵐のはらふらめ
此山もとの雨とふるなり
権中納言公任
牛瀧山 大威德寺坊中
牛瀧本堂
牛瀧莊にありいにしへは石藏五山といふ坊舎四十宇あり
本坊方は真言宗穀屋方は天台宗
本尊大威德明王
佛殿に安す慧亮の作
不動尊
役行者の作
阿弥陀佛
弘法の作
倶に𦚰檀に安す
役行者堂
自作の影を安す
多寚塔
金剛界大日を安す
弘法の作
求聞持堂
虚空藏を安す
弘法の作
鎭守社
弁財天を安す
役行者勧請
蛭子大黒社
行者勧請
天照太神社
大師堂の傍にあり
大師堂
弘法大師の画影
眞如法親王の筆
鐘堂
大師堂の左にあり
閼伽井
本堂の傍にあり
夫當山は役優婆塞開創し給ひ厥后弘法大師惠亮和尚も經歴して中興し給ふ
いにしへは石藏五山となづく轉法輪の嶺ありこゝに髙㘴石ありて是佛の猊㘴也といふ
初メ役行者こゝに來ツて第二の瀧の上に修練し不動尊を彫刻してこれを安置す
今の明王堂なり
行者七寳を巌窟に収て山鎭とす窟の中杳冥にして烈風多し
故に風穴といふ深さ二十町許
昔日聖武帝の御時天下大に旱す帝これを占しむるに鳳城の坤の隅に瀑布あり雲霧其うへに瀰漫す
雨をかの地に禱り給はゝ則驗あらん於是勅使をして雨を禱らしむ須臾にして沛然と雨下る
帝大に喜悦し給ひて重て使を遣し瀧の上にて音樂を奏し賽あるこれを樂原といふ
此時六十六州亦田園を此山に分ち入る六十六段田と号す
これより飛泉を尊て厳重瀧といふ従爾巳來毎歳六月十五日大般若を轉讀して五穀豊熟を禱り旱魃を救ふ
山に求聞持堂及び兩層塔あり弘法大師の起る所也
叡山の大乘坊惠亮和尚此山に來ツて大威德の法を修す其時大威德尊第三の瀧より湧出し給ふ
騎る所の牛は潭心の臥石これなり其石の長四丈瀑布これを挟んで飛流る恰青牛の水より躍り出るに似たり
惠亮感喜膽仰して乃大日岩の澗の石上に㘴して一刀三禮し大威德尊の像を造る
今の本尊此れ也
至此厳重瀧を牛瀧といふ
第一の瀧の髙サ二丈第二の瀧の髙サ十丈第三の瀧の髙サ四丈
此三の飛泉の水源に四十八瀧あり曲折犇流す
尚山中に異迹多し且一山に楓多し秋の末には紅錦を布が如し麓より峯まて紅葉ならぬ所なし
坊中の書院に映じて衣類諸噐まで紅を灌が如し最竒絶の壯観也騒人墨客こゝに到らずんばあるべからず
牛瀧名山大威德寺記
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泉州南極有山曰牛瀧老松古檜陰森接翠蓊蔚清徽
其可観矣絶頂有石狀如青牛従石鏬濺出乳水霏々
焉猶雪之飄空葢牛瀧之穪其斯之謂歟昔者役行者
闢葛城山毎逢嶮難之處設修密壇此山亦其一數也
正殿安大威德明王像六面六臂駕青牛叡山慧亮法
師手所鐫一下刀三稽首久之後成威霊殊絶闡提生
信又奉彌陀佛千像側者明王之五忿怒尊之中主是
以彌陀佛示迹故也因名曰寺於大威德相傳
清和天皇登極詔亮降摩開護摩壇修威德明王之法
而感青牛現空 天皇嘆希於是亮寄來今像於本山
鎭護王畿坤隅又一時国内大旱下詔祈雨無不有其
應命一博士占出地霊遂得此瀧頭啓建道塲未經三
日雨淋一國天使入山威儀巌重故又有巌重瀧之穪
後來好事者於葛城山中立二十八峰配法華二十八
品今此最高峯當法師品又有求聞持堂開山堂弘法
大師堂坊舎三十餘宇半瑜伽者穪本坊主寺事半天
台宗穪穀屋而勧化諸方近來有牛瀧紅葉之名九十
月間貴賤齎糧入山綿々不斷予偶與二三子過遊于
此霊縦幽竒猶勝所聞今本坊主𥁎某公就余求記因
書因書如斯勝做讃曰
泉州南極 有名道塲 境穪清絶 地卜𠮷祥
役公所闢 埀一千霜 清和所剏 烈數十坊
彌陀権化 威德明王 維霊赫々 其像堂々
忿怒形体 可啓可惶 慈悲面相 能端能莊
降伏魔外 擁護今尚 抜苦與樂 同塵和光
旱天下雨 澤之邉疆 秋峰飜錦 人自諸方
神恩日希 霊跡増彰 誰不帰仰 我故讃揚
山堅寺古 地久天長
寳永元年佛成道後三日紫野大心統領頭陀操觚于
泉州界府蓮華堂
此山の丹楓は髙雄通天には劣らずして谷の低も峯の髙きも
紅なるざるはなし其くれなゐの中より三ツの瀧だん〱におちて
牛石さしはさみて水の音つよく霜に染たる紅葉は此牛の背に
散かさなりて錦の褥を着たるが如しあるは溪の早き瀬に流れ
あるは巌の肩に舞止るもあり散かたには坊舎の書院廚まてみな
紅にて人の顔も赤き面を被たるが如し楚岸呉江もこれには
まさらじとそおもふなるべし
普照院宮元瑤法親王九十一歳
暮ぬとてさても覺へす紅葉はの下てる山の入相のかね
牛瀧の紅葉をすりうつしたるに
林丘寺宮元秀法親王
時雨せし山路のそての名残かな霜にかれせぬ霜の言の葉
瀧紅葉 風早公長卿
山髙みうつるもみちにものよりも秋はことなる瀧ついはなみ
武者小路實蔭卿
行て見てもみちを分る秋もあらはなにうし瀧の山遠くとも
烏丸光栄卿
をとにのみさこそときくはうし瀧の山の紅葉ばいつか分見ん
冷泉爲久卿
今もたれ車をとめて牛瀧のもみちのはやし秋にめつらん
武者小路公野卿
染かけてをるや錦もたてぬきに紅葉しからむ瀧のしらいと
髙橋季重卿
つてにのみきゝてやまむもうし瀧の山は都のよその紅葉ゝ
義胤僧都
からにしき風の行手に織かけて紅葉をぬきの瀧のしら糸
惠通僧都
よそにしてまた見ぬもうし瀧つ波名にこそたれて山の紅葉ゝ
紅葉する牛瀧の音は遠く雲井にひゞきて
やむことなき御方の言のはしけかりけれは
小車もつゐにとゝめむ名にしおはゝうし瀧山の木々の紅葉ば 似雲
誹諧
うし瀧やもう〱とも夕もみち 京梅盛
谷峯もわかす紅葉の入日かな 塘雨
牛瀧のもみちを見て狂哥をよめる
紅葉見て耳は洗はず酒て去ぬわれは巣父そ牛瀧の本 斑竹