深日浦
吹飯浦
洞庭西望楚江分
水盡南天不見雲
日落長沙秋也遠
不知何處弔湘君
李白
深日浦漁舩
新古今
殿上はなれてよみ侍る
天津風ふけゐの浦にゐるたつの
なとか雲井にかへらさるへき
藤原清正
淡輪村の南にあり
都て此浦は南北壱里許にして濵松の色濃に芦辺には田鶴の聲
波間には千鳥鳴つれて滿干にゆられ江水洋々として西の方には淡路の翠巒髙く聳へ
北は摩耶 六甲山 武庫 一の谷の嶺烈り 南は紀の海 加田の湊 粟嶌の神祠近く
其西には二子嶋 阿波の鳴門の海あらくして空は滄浪につゞきて漁舟ところ〱にちいさく
渚は眞砂浄ふして洗ふが如く櫻貝春風にうち上て殘月端山に白く 秋の汀には蓼の花赤く
巨巌こゝかしこにたちて物すごく其名を藻を苅る海士乙女に問へば冠石 烏帽子岩 入道岩などゝ教ゆ
そも〱此浦はむかしより和哥の名どころにして古人の秀咏多く代々の集にも見へたり
此國の南なれと名髙き勝地にして風流の輩たゞに過べきにもあらず胥を祭り屈を弔するの江頭ともいひつべきもの歟
萬葉集
時風吹飯乃濵爾出居乍贖命者妹之爲社
千載
さよちとりふけひの浦に音信てゑしまか磯に月かたふきぬ 藤原家基
同
待かねてさよもふけひの浦風にたのめぬ波の音のみそする 三河内侍
新古今
月かけのふけひの浦のさよ鵆のこるあとにもねをなかれけり 素俊法師
新勅撰
月清み千鳥鳴也おきつ風ふけひのうらの明かたの空 俊成
同
沖津風ふけひの浦のはけしさよなこりとゝも千とり鳴也 俊頼
同
沖津風ふけひの浦による波のよるも見へす秋のよの月 小侍従
新後撰
大かたの名こそふけひの浦ならめかたふかてすめ秋のよの月 讀人しらす
玉葉
嶌〱も雲ゐをこひて年ふりぬわか世ふけひのうらの友鶴 院御製
同
風さむみふけひの浦のさよ千鳥遠き汐干の方に鳴なり 爲氏
新拾遺
立波の音はのこりておきつ風ふけひの浦にこほる月かけ 祝部成光
同
あしへより汐みちくらし天津風ふけひのうらにたつそ鳴なる 順徳院
新續古
いかにせん我よふけひのうらみても子をおもふ鶴のをろかなる身を
雅世
愚艸
こす波にわか世ふけひのうらみきてうちぬるゆめも此ころそみる
定家
拾玉
秋も今はふけひのうらの松風にたつなく夜半の有明の月 慈鎭
同
なかきよのをのかちとせも夢なれやふけひの浦に鶴のねふれる 同
同
かちまくら夢路はかなくおとろけはふけひの浦のあかつきの空 同
家集
いそに出てあさりするひの消ぬれはふけひの浦を尋つるかな 伊㔟
玉吟
いたつらにをのかふけひのうらなれて子を思ふつるのいふかひもなし
家隆
御集
汐風やさむけかるらん冬の夜のふけひのうらにちとり鳴也 後鳥羽院
夫木
いたつらに我世の秋もふけひかたそてなる月もかたふきにけり 行家
同
春風にふけひの浦のちる花をさくらかひとてひろふけふ哉 上総
同
千鳥なくふけひのかたを見わたせは月かけさひしなにはえのうら
西行
同
冬さむみ小夜もふけひの浦風に嶋わたりする舟やいつらん 隆季
同
秋の夜のふけひのうらに舟出して月にやあまの魲つるらん 中務御子
六帖
もしほやくあまのたく火のもえさらはふけひのうらをけふみましやは
讀人しらす
哥枕
夏の夜はふけひの浦のほとゝきす岩うつ波の立かへりなけ 親隆
誹諧
春風やふけゐの田鶴を眠らする 舜福
若はみつ吹飯の月を夜道かな 其角