01-00500 堺名噐

さかいの名噐めいき


豊太閤ほうたいこうさかい名噐めいきあつめさせ給ひ
北野きたの茶湯ちやのゆの時かさらせ給ふ
今井宗久が珎噐ちんき第四番となるとぞ聞こへし

當津には古來こらいより天下に髙き珎噐ちんき多し
然れども遠くときりて諸國へ散在して他のいゑとなるものもあり又其子孫に傳てそんするものもあり
旧記きうきによつて其品噐ひんき大概たいがいをこゝにしるするのみ

〇元亀元年四月朔日

信長のぶなが濃州じやうしう岐阜ぎふより上洛あつて堺津に所持しよぢせる名物めいぶつ噐品きひんを御覧あるべしとて松井有閑ゆうかん法印と丹羽には五郎左衞門長秀ながひで两人りやうにんめいぜられける
此よし堺津南北へふれながしければ所持しよぢともがらたびたてまつらではとて持叅ぢさんせるに幾等いくらともなくあつまりける
信長公一々御覧あつてすぐれたを留置とめおきすなはちをうじたるあたひよりはるか過分くはぶんたまはりければ此者共ものどもにはかとくたるやうに喜恱きゑつして帰りける
菓子くはし天王寺屋宗及そうきう 〇小松嶌こまつしま藥師院やくしゐん 〇柑子かうしくち油屋常祐じやうゆう

永禄八年

信長公へけん上の茶噐ちやき
松嶋まつしま葉茶壺はちやつぼ今井宗久 〇菓子くはし紹鷗ぜうおう

天正十三年

秀吉公の命によつて洛陽北野大茶湯の時當津より多く茶噐を持叅して其席に飾りける
先秀吉公の御寳噐を初に飾て第一番とす
此噐こゝに記さず
  〇第二番 千利休 賜三千石

烏丸からすまる香爐かうろ
鳫繪かりのゑ
捨子すてご
楢柴ならしば
尻膨しりぶくら
攻紐釜せめひもかめ
銅繽あかゞねぐり〱
塗天目ぬりてんもく
髙麗かうらい茶碗ちやわん
入道蜘にうだうくもかま
竹蓋置たけふたおき
折撓おりため茶𣏐ちやしやく
蛸壺たこつぼ水飜みづこぼし

  〇第三番 天王寺屋宗及そうきう 賜三千石

枯木かれき
撫子なでしこ
初花はつはな
尼子あまこ天目てんもく
髙麗かうらい茶碗ちやわん
折撓おりため茶𣏐ちやしやく
入道蜘にうだうくもかま
竹蓋置たけふたおき

  〇第四番 納屋宗久 賜三千石

月繪つきのゑ
松花まつのはな
祖母口うばくちかま
信貴しきの肩衝かたつき
頭巾ときん茶碗ちやわん
竹蓋置たけふたおき
三嶋みしま茶碗ちやわん
折撓おりため茶𣏐ちやしやく

 此時秀吉公の御手前にて國主の諸侯方へ御茶を賜はる

〇於當津古來名物茶噐之類

 △千宗易 利休居士

情張じやうはりかま
 
鶴一聲つるのひとこゑの花生はないけ
 
香爐かうろ
已然は三好みよし宗三所持
三好みよし實休じつきうの肩衝かたつき
 

 △天王寺屋宗及そうきう 江月こうげつ和尚の父也

文琳ふんりんの茶入ちやいれ
 
天目てんもく
 
布袋ほていの香合かうばこ
 
舩子繪せんすゑ
筆は牧溪 讃は虚堂きだう
鏑無かぶらなしの花生はないけ
 
鷺丸さぎのまるの
梁楷筆
宮王みやわうのかま
 
 
 
志野しの茶碗ちやわん
志野宗波の所持也 此人香道の宗匠にて風流の人也
だい
數の内の黑臺也 覆輪鍮鉐朱ふくりんついしゆにて梅の画内輪より中朱にて一文字あり
不破ふはの香爐かうろ
已然は烏丸殿御所持也
合子がつし
水指みづさし
 
鍔口つばくち柄𣏐立ゑしやくたて
 

 萬代屋もずや道安だうあん

投頭巾なげづきんの茶入ちやいれ
ある人此茶入ちやいれ珠光しゆくはうの方へ見せければ折節頭巾をながら見られけるに褒美のあまりに頭巾を投られけるより名となりぬ
つぼ篦目へらめあり 惣藥濃飴色こいあめいろなり さきに一 しもに一 一文字の藥あり
珠光しゆくはう茶碗ちやわん
 
竹田たけた茶碗
 
九重こゝのゑのつぼ
此壺白柿也 七斤餘入 初は南都にありて其後洛陽に來り東山殿の御手にあり能阿弥のうあみ拜領はいりやうして此傳來でんらいす けふ九重こゝのへに匂ひぬる哉といふ古哥にて名とす
つゝ
 
たけ茶碗ちやわん
初は守德の所持也
灰被はいかづき
 
 
 

 あか子𠮷松よしまつ

木野邊きのべ肩衝かたつき
弦付つるつき茶入
牧溪もくけいにはとりの
断江だんごう茶碗
寅申とらさるのつぼ
寅申の日は天王寺の市の日也 此市の出たるゆへ名とす 六斤八也 初は木屋宗勧か所持
〇舩
初は木屋宗於か所持也

 △笠原宗念

肩衝かたつき
旧記に何れの肩衝となし 惣而銘なきは其家名を名とす

 小西こにし道純だうじゆん

馿蹄ろてい茶入ちやいれ
肩衝かたつき
内赤うちあかぼん

 しほ屋宗恱

末松山すゑのまつやまいし
上下一寸八分横五寸三分前後二寸九分斗 峯あり 黑白の二色上に交る 末の松山波こさじといふ古哥にて名付たり
象澙きさかた
葉茶壺也 此壺にこぶ十五あり 松嶋にひとしきとて出羽の名所象澙きさかたとは名付たり 風景松嶋にかはらず 古哥こかあり

  松しまやをしまの浦のなかめよりなをまさりけり象澙きさかたの月

灰被はいかづき天目
水仙花すいせんの
醋色すいろ合子がつし
小野おのゝ肩衝かたつき
初は尼崎屋道易だうゑきが所持なり
肩衝かたつき
初は尼崎屋宗向か所持なり

 △油屋常祐

細川ほそかは晴元はるもと天目てんもく
浅茅あさぢたけ茶𣏐ちやしやく
芙蓉ふようの
舜譽の筆なり 赤色の絹に書す
餌簀ゑふごの水指みづさし
〇臺
七之内也

 △小嶌屋道察だうさつ

客耒きやくらい一味いちみ
唐画の名筆
枯木かれき
藤瘤ふじこぶ五德ごとく
初は日比谷了慶所持也
時雨しぐれつぼ
〇舩
初は宗祐が所持也
だい
七之内也
初はかは屋長善が所持也

 臙脂屋べにや宗陽そうやう

肩衝かたつき
新田に似てひだあり
面に白藥見ゆ
虚堂きだう文字もじ

 あか子宗佐そうさ

鶴頸つるくび茶入
趙昌ちやうしやう花画はなのゑ
馿蹄ろてい茶入
初は臙脂べに屋帯刀が所持也
かきの茶入
初は小嶋屋宗治が所持なり

 淡路あわぢ屋宗和

夕陽ゆふひの
太皷たいこ茶入
餌簀ゑふご茶入
赤松あかまつ則祐そくゆうが肩衝かたつき

 △今井宗久

浪繪なみのゑ
〇臺
之内
紹鷗ぜうおう天目
虚堂きだうの文字もじ
志野しのゝ茶碗ちやわん
もと唐焼たうやきといふ
なべかま
初は珠光所持也
林哲りんてつかま
守德しゆとくたけの茶𣏐ちやしやく
芋頭いもかしらの水指みづさし
初は紹鷗ぜうおう所持也
開山かいさん五德ごとく

 △今井宗春

虫繪むしのゑ
飯銅はんとう
うち赤盆あかぼん

 △䋄干屋道琳だうりん

淺見あさみ天目てんもく
拜領
馮海ふかいあはの

 △伊勢屋道滴だうてき

瘦馬やせむまの
小軸
圓座ゑんざ肩衝
〇唐茶碗
〇肩衝

 △太子屋宗宇

牧溪もくけい大根だいこんの
〇臺
數の内

 △小嶌屋

〇肩衝
(車立)子らうご花瓶はなかめ

 藥師院やくしゐん

〇肩衝
〇飯銅
子昻すがうのすゞり
〇天目
葉室はむろ文琳ぶんりん

 石橋いしばし良叱りやうしつ

串指くしさしすゞめの
釣瓶つるべ
坂東屋ばんどうやつゝ
初は蜂屋道於所持なり
蝸牛くはぎうの花生はないけ

 △松江隆仙りうせん

きぬたの花生はないけ
観物くはんぶつ初墨跡しよぼくせき
瘦馬やせむまの
李安忠筆
初は伊勢屋道滴所持

 △了無

貨狄くはてきふね
初は本邉所持
天目てんもく

 △石津屋宗ゑい

すゞめの
深山みやま茶壺ちやつぼ

 △錢屋宗のう

無準ぶしゆん文字もじ
虚堂きだう文字もじ
須弥しゆみかま
簞笥たんす

 宗本そうほん

貝盡かいつくしの
玉磵ぎよくかん夕照せきせうの
八幅の内也
初は淨安所持也

 ぢう宗甫そうほ

虚堂きだうの文字もじ
千種ちくさの茶入壺ちやいれつぼ
うち赤盆あかぼん
飯銅はんとう
圓悟ゑんごの文字もじ

 武野たけの宗瓦そうくは

茄子なすび
漁父ぎよふのすゞり
象牙ぞうげ茶𣏐ちやしやく

 △正通

牧溪もくけい摩腹なではらの布袋ほてい
い子の
月山けつさんの筆
初は屋宗和所持也
をきな天目てんもく
蒲公英たんほくの
拜領

  悉如前