02-03000 一路山禅海寺

一路山いちろさん禅海寺ぜんかいじ


乳岡ちのをかの一居士こじへいそと艸畚ふごをおろし
ゆきゝの人にしよくを乞てつひ禅法ぜんほうようを得て五門ごもん精錬せいれん

石津の上方かみかた市村にあり禅宗
京師大德寺の末泒也

開基かいき一路居士いちろこじ

もと洛西らくせいにん一代の御門主ごもんしゆたり
のがれてこゝに幽棲ゆうせい詩哥しかを吟し清貧せいひんたのしむ
 月やみん月には見へすなからへてうき世をめくる影もはつかし 一路居士
 世をしのふいほりの軒の朽ぬればいきても苔の下にこそすめ  仝

きう

同時どうじの人也ある時一きう和尚をしやう問曰とふていはく
 萬法有道如何是一路ばんはうみちありいかんこれいちろ 答曰こたへていはく 萬事可休如何是一休ばんじきうすべしいかんこれいつきう

居士こじ

つねに半升はんしやう鐺内とうない菜蔬さいしよ范冉はんせん釜魚ふぎよたのしめり 其狂哥に曰
 手とりなべおのれはくちがさしでたぞ雑炊ざうすいたくと人にかたるな
なべ細川の重噐となつて今にあり又ある時詩を賦して曰
 節後黄花吹不せつごのくはうくはふけともとばず  籬根臥雨似薔薇りこんあめにしてしやうびににたり
 萬年峯頂新長老ほうてうのしんちやうらう  咲下禅牀布衣わらつてぜんしやうをくたつてほいにたいす

畚懸松ふごかけまつ

當寺にあり一居士此所に閑居かんきよして人の往來ゆきゝぜつし一ふごを此松枝まつがゑよりおろこゝろざしある人に食物しよくもつうけ露命ろめいをつなぎ給ひける
さとわらべども馬糞ばふんうしくつなど入れてをきけれは居士それを見て最早もはやかてつきたりとて是より断食だんじきして終り給ひける也
まこと大隠たいいんにして観念くはんねんまどには空門くうもんまも看経かんきんうてなには明月めいげつてらくつ階前かいぜんくさおぶころも戸外とぐはいちりなし
しん惠遠ゑをん法師三十餘年山を出ず俗塵ぞくぢんまじはる事をきんしけるも同日どうじつろん