02-04300 髙師濵

髙師濵たかしのはま


髙師濵たかしのはまなる濵寺はまでら旧跡きうせき海邉うみへにて紀路きのぢ海道かいだうなり
此所古松こしよう多くしげりて風景ふうけいなゝめめならす古詠多し
 松の葉のあはひ〱に月千里  湘夕

髙師たかし 髙石たかしに書す
八雲御抄やくものみせう云髙志濵攝泉に通す萬葉まんよう集大伴の髙志濵は攝津國也
古今集こきんしう貫之つらゆきの詠髙師濵は和泉國也古來名所和哥集みな和泉國とす
なお哥によつて其境を考ふへし
古今
 おきつなみたかしの濵のはま松の名にこそ君を待わたりつれ    貫之
續拾遺
 汐風に音も髙しのはま松にかすみてかゝる春の夕なみ       平親清女
續古
 あたなみのたかしのはまのそなれ山なれすはかけてわれこひめやも 定家
 同
 汐風も夜や寒からしおきつ波たかしの濵の千鳥なくなり      源雅言朝臣
金葉
 音にきく髙しの濵のあた波はかけしや袖のぬれもこそすれ     一宮紀伊
新千載
 松かねの髙しの濵のおきつ波をよはぬ色にかけてこひつゝ     前大納言爲憲
 同
 おきつ浪よする髙しの濵松のねにはなけとも入そつれなき     藤原盛德
新拾遺
 おきつなみ髙しの濵の汐風によや寒からしたつそ鳴なる      善源法師
玉吟
 うつ波の髙しの濵の真砂地におひたる松のねこそあたなれ     家隆
御集
 恋すてふ名のみ髙しの濵千鳥なく〱かへる袖のあたなみ      後鳥羽院
家集
 身をふる涙は今もいつみなるたかしの濵にみつる汐なり      躬恒
懐中
 いつみなる髙しの濵の波しあれは信太のさともあらはれにけり   讀人しらす
千五百番
 おきつ波髙しの濵のさよ千鳥あともさためぬ聲きこゆ也      隆信
夫木
 我恋は髙しの濵にゐるたつのたつねてゆかんかたもおほへす    讀人しらす
建保名所
 沖津浪たかしの濵の松もなをぬるゝはかりの名にこそ有けれ    順德院
 同
 よる波も髙しのはまの松かねのかはくまもなきまくら也けれ    定衡
 同
 まつとたに人はかけてもしら浪の髙しの濵に袖はぬれつゝ     兵衛内侍
 同
 風あらき波や髙しの濵千鳥ふみかよひこしあともたへぬる     俊成女
 同
 物思ふ波の髙しの濵松のまつもむなしき色にふりつゝ       行家
 同
 なき名のみ髙しの濵の松か枝にいかなる風のたへす吹らん     康元
 同
 恋すてぬ名のみ髙しの濵千鳥さのみや浪のそこになくへき     範宗
 同
 なき名のみ世には髙しの濵松のつれなき色にこひやわたらん    知家
新葉
 たつ名のみ髙しのあまのぬれ衣袖まきほさん波のまもかな     妙光寺
 同
 たのめこし人にこゝろをおきつ浪たかしの濵の松そくるしき    盛親
艸菴
  風吹はたかしの濵のあた波をつはさにかけて千鳥なく也     頓阿