03-02600 契冲舊菴

契冲けいちう舊菴きうあん

同村伏屋氏の後園にあり此僧は攝州尼﨑の産にして下川氏といふ
壯年より國學こくがくに達し和哥を詠しみつから著作ちよさくふみ数篇すへんあり
此地居住きよぢうの事は浪花らうくは髙津かうつ圓珠菴ゑんしゆあん碑銘ひめい并に泉州志せんしうしばつに見へたり
自筆じひつの和哥数首伏屋氏の家藏とす
又かの家の抱所に千畝の竹林あり俗に大竹やぶといふ毎年大竹多く出るによつて也これ國中のといふべし
  池田川のほとり伏屋謀か造りおける菴
  をかりて住けるに其ほとり大竹おほ空
  に聳ゆるものおほきを見てよめる
 千尋ある岸根に生ふるむら竹をいほりのまかきすくしてそ見る 契冲
  同しく此菴の閑なるをよめる韓退之か
  詩の意をふくみて
 いほちかき竹のみとりの玉はゝきはらはて塵のなき世にそすむ 仝
  池田川の流いとおもしろく嶋と見へた
  る所に梅ありてにほひけるを讀る
 夕附夜梅か香おくる河風にきしねの草の身をそわするゝ    仝
 梅花河邉の月ににほふ夜は千鳥の音をや鶯にせん       仝
  池田川の岸に藤と山吹との咲あひたる
  につけて
 山川のきしの藤なみかゝれともたれにかいはん山ふきの花   仝
  池田川納涼
 夏川のいしまの水の涼しさにうをの心もほれにてそしる    仝
 岸のうへに菴しをれは川音の枕をくゝるよはそすゝしき    仝