麻福田麿家地
麻福田丸が
戀路こひぢ
拾遺
恋つゝもけふは有なん玉くしけ
あけんあしたをいかて暮さん
稲葉村にあり麻福田まふくた丸は智光ちくはう法師の童名とうめう也此時いまだ河内國なり
曼荼羅縁起まんたらえんき云むかし河内國に冨有ふゆうの家あり其門前に貧窮ひんきうの民あり其子を麻福田丸まふくたまるといふ
冨家ふけの女むすめを恋こひて煩わずらひけるに母これを悟さとツて知己ちかつきについて密ひそかに問とはしむ
童子其よしを語りければ母其及ばざる事を歎なげきて共に病やまひに臥ふす
冨家ふかの姫ひめ風ほのかにこれを聞て母子ぼしわがために死せは大なる罪つみなるべし即密ひそかに使つかひを遣つかはして偽いつはツて母子ぼしのこゝろを慰なぐさむ
これによつて二人共ふたりとも快気くはいきしれば又姫使して云密事みつじは筆ふでの道みち能よくなくんば通事つうじがたし
冝よろしく筆ふでを學まなぶべしといひやれば童子これを諾ふくして筆ふでを能よくす
姫ひめ又使つかひして云汝願ねがはくは僧となり給へわれに近ちかつくに便たよりあらん童子即すなはち僧となる
又姫使つかひして云たとひ僧となるとも効驗かうげんなくんば敢あゑて近づかじ願ねがはくは髙僧かうそうとなれ
小僧こぞう止やむ事を得ずして他國たこくに行ゆく
姫ひめ其志こゝざしを愍あはれんで手自てづから藤ふじの袴はかまを縫ぬふて贈をくる
小僧諸山に渉わたりて學まなびける所姫ひ早世そうせす
小僧悲嘆ひたんの餘あまり世よの無常むじやう迅速じんそくなるを恐おそれて日夜にちや怠をこたらず勤つとめて學道がくだう到いたりければ名なを智光ちくはう法師といふ
其それより行基ぎやうぎの弟子でしと成益ます〱佛門に深く世の聞へ髙たかかりけるに行基より先立て入寂にうじやくせられき
行基即すなはち智光ちくはうの追善ついぜんを修しゆし一磬けいして一首しゆの和哥わかを詠ゑいじ給ふ姫は行基の前身也とそ
麻福田加修行尒出之藤袴其片裩遠波我曽縫天喜