03-08200　金凉山願泉寺

願泉寺ぐはんせんじ
卜半ぼくはん自坊じばう
世に貝塚かいつか御坊といふ

貝塚かいつかにあり眞教院卜半ぼくはんと号がうす貝塚一縣けんを領りやうす
宗派は表裏御門跡御宗義を以て東叡山とうゑいに属して正院家たり

本尊阿弥陀佛

𦚰檀けうだん宗祖親鸞聖人眞向の影聖德太子七髙祖の影を安す

當寺はむかし僧正行基畿内に四十九院を草創し給ふ砌此海濵かいひんにも佛塲ぶつじやう
を建たてんと思召せとも其㓛ならずして空むなしく星霜せいそう累りぬ
今に沖中おきなかに洲す出るは此佛縁の験しるし也とそ
天文年中漸佛堂舎屋しやおく隆興りうこうすといへども天正五年の頃紀州雜賀さいか一揆き貝塚に乱入す
其時織田信長の下知として堀久太郎秀政來^ツて一揆を鎭しづむ
此時堂舎頗すこぶる荒蕪くはうぶに及ぶ而后しかうしのち本願寺第十一世顕如上人開基し給ひ
舊もと此上人は第八代蓮如上人より大坂石山御堂いしやまみだうにまし〱海内かいたいに宗風を輝かゝやかし給ふ
信長思慮しりよして石山の地は要害ようがい堅固にして畿内の勝地也
本願寺を他境へ退去たいきよなさしめ本城を築かんとて多年合戦に及ふ^{事は信長記拾遺に詳也}
遂に勅みことのりを蒙りて顕如上人を紀州雜賀に赴おもむくなをも信長野心やしんを懐いだき石山退去の砌軍勢をもつて追討にせんと計る
此時顕如上人危急ききう存亡そんぱうの辰とき也貝塚卜半に急難きうなんを救すくはん事を乞たまひて一通の懇書こんしよを贈り給ふ
卜半此節せつ紀泉きせん兩國の門徒をかたらひ忠誠ちうせいを励はげまし上人を石山より恙つゝがなく退去なさしめ泉州の敵勢を鎭しづめ紀州雜賀に送り奉る
天正の頃には顕如上人の嫡男教けう如上人も信長と不和ふわにより三^ケ月許ばかり潜居せんきよし給う
顕如上人在住の時に堂下の池中に岐枝ふたまたの蓮れん咲さけり世に双頭さうとうの蓮れんは稀まれにありといへとも荷莖かけうの双枝さうしなるは古今ここん希代きたい也
本願寺宗風表裏二派はに分れ法流倍ます〱興隆こうりうの霊瑞れいずい也とて人々甘心かんしんせり
此双枝の蓮華今に本尊檀だん上の莊厳しやうごんの圖づに遺れり
信長亡びて後天正十三年顕如上人攝州天満に遷り給ふ砌當寺を卜半に附属ふそくし給ふ
寺式じしきは上人在住の規則きそくを以て勤行ごんぎやうあるべき㫖遺命ゐめいによつて今に於て舊式に変る事なし
これ全^ク卜半一宗に㓛あるによつて也
毎歳霜月の報恩講ほうをんこうには自他宗じたしう群ぐんをなし貝塚町々に市店してんを飾かざりて賑にぎはしき事稲麻たうまの如し