04-07200 深日浦

深日浦ふけひのうら


吹飯浦ふけゐのうら
洞庭西望楚江分
水盡南天不見雲
日落長沙秋也遠
不知何處弔湘君
     李白


深日浦ふけひのうら漁舩すなとりふね
新古今
 殿上はなれてよみ侍る
天津風ふけゐの浦にゐるたつの
 なとか雲井にかへらさるへき
        藤原清正

淡輪村たんのわむらの南にあり
すべ此浦このうら南北なんぼく壱里ばかりにして濵松はままついろこまやか芦辺あしべには田鶴たづの聲
波間なみまには千鳥ちどりなきつれて滿干みちひにゆられ江水こうすい洋々よう〱として西にしかたには淡路あはぢ翠巒すいらんたかそび
北は摩耶まや 六甲山ろくこうさん 武庫むこ いちたに嶺烈みねつらなり みなみうみ 加田かたみなと 粟嶌あはしま神祠しんしちか
其西そのにしには二子嶋ふたごしま 阿波あは鳴門なるとうみあらくしてそら滄浪さうらすにつゞきて漁舟ぎよしうところ〱にちいさく
なぎさ眞砂まさごきよふしてあらふがごと櫻貝さくらかい春風はるかぜにうちあげ殘月ざんげつ端山はやましろあきみぎはにはたではなあか
巨巌こがんこゝかしこにたちてものすごく其名そのな海士あま乙女おとめへば冠石かふりいし 烏帽子岩ゑぼしいは 入道岩にうだういはなどゝをし
そも〱此浦このうらはむかしより和哥わかどころにして古人こじん秀咏しうゑいおほ代々よゝしふにも見へたり
此國このくにみなみなれと名髙なだか勝地しやうちにして風流ふうりうともがらたゞにすぐべきにもあらずしよまつりくつてうするの江頭こうとうともいひつべきもの歟
萬葉集
 時風ときつかぜ吹飯ふけひはまいでつゝあがなふいのちいもためとそ
千載
 さよちとりふけひの浦に音信てゑしまか磯に月かたふきぬ   藤原家基
 同 
 待かねてさよもふけひの浦風にたのめぬ波の音のみそする   三河内侍
新古今
 月かけのふけひの浦のさよ鵆のこるあとにもねをなかれけり  素俊法師
新勅撰
 月清み千鳥鳴也おきつ風ふけひのうらの明かたの空      俊成
 同 
 沖津風ふけひの浦のはけしさよなこりとゝも千とり鳴也    俊頼
 同 
 沖津風ふけひの浦による波のよるも見へす秋のよの月     小侍従
新後撰
 大かたの名こそふけひの浦ならめかたふかてすめ秋のよの月  讀人しらす
玉葉
 嶌〱も雲ゐをこひて年ふりぬわか世ふけひのうらの友鶴    院御製
 同 
 風さむみふけひの浦のさよ千鳥遠き汐干の方に鳴なり     爲氏
新拾遺
 立波の音はのこりておきつ風ふけひの浦にこほる月かけ    祝部成光
 同 
 あしへより汐みちくらし天津風ふけひのうらにたつそ鳴なる  順徳院
新續古
 いかにせん我よふけひのうらみても子をおもふ鶴のをろかなる身を
                              雅世
愚艸
 こす波にわか世ふけひのうらみきてうちぬるゆめも此ころそみる
                              定家
拾玉
 秋も今はふけひのうらの松風にたつなく夜半の有明の月    慈鎭
 同 
 なかきよのをのかちとせも夢なれやふけひの浦に鶴のねふれる 同
 同 
 かちまくら夢路はかなくおとろけはふけひの浦のあかつきの空 同
家集
 いそに出てあさりするひの消ぬれはふけひの浦を尋つるかな  伊㔟
玉吟
 いたつらにをのかふけひのうらなれて子を思ふつるのいふかひもなし
                              家隆
御集
 汐風やさむけかるらん冬の夜のふけひのうらにちとり鳴也   後鳥羽院
夫木
 いたつらに我世の秋もふけひかたそてなる月もかたふきにけり 行家
 同 
 春風にふけひの浦のちる花をさくらかひとてひろふけふ哉   上総
 同 
 千鳥なくふけひのかたを見わたせは月かけさひしなにはえのうら
                              西行
 同 
 冬さむみ小夜もふけひの浦風に嶋わたりする舟やいつらん   隆季
 同 
 秋の夜のふけひのうらに舟出して月にやあまの魲つるらん   中務御子
六帖
 もしほやくあまのたく火のもえさらはふけひのうらをけふみましやは
                              讀人しらす
哥枕
 夏の夜はふけひの浦のほとゝきす岩うつ波の立かへりなけ   親隆
誹諧
 春風やふけゐの田鶴を眠らする               舜福
 若はみつ吹飯の月を夜道かな                其角